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涼宮ハルヒ挙国一致内閣 国務大臣(敬称略) 内閣総理大臣 涼宮ハルヒ 内閣官房長官 古泉一樹 総務大臣 国木田 法務大臣 新川(内閣法制局長官兼務) 外務大臣兼沖縄及び北方対策担当大臣 喜緑江美里 財務大臣兼金融担当大臣 佐々木(内閣総理大臣臨時代理予定者第一位) 文部科学大臣 周防九曜 厚生労働大臣 朝比奈みくる 農林水産大臣 会長 経済産業大臣 鶴屋 国土交通大臣 藤原 環境大臣 谷口 防衛大臣 長門有希 国家公安委員会委員長 森園生 国務大臣以外の主な役職(敬称略) 内閣官房副長官(政務) 橘京子 内閣情報官兼内閣危機管理監兼内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当) 朝倉涼子 内閣広報官 妹 内閣広報室企画官 吉村美代子 内閣総理大臣秘書官(政務担当) 俺 ああ、なんというか、呉越同舟という言葉がぴったりな状況に陥ってしまった経緯については省略しよう。 まあ、要するに未曾有の国難ということで、対立していたSOS党と佐々木党が連立して挙国一致内閣を作ったということだ。 じゃあ、とりあえず、上から順番に説明しようか。 ハルヒが総理大臣なのは、当然だわな。何でも一番が好きなハルヒが二番以下の地位に甘んじるわけもない。SOS党は衆参両議院で第一党だから、その党首が総理大臣に選ばれるのは、普通に考えても当然だしな。 古泉は、どこまでいっても、ハルヒのフォロー役というわけだ。実質、この内閣を取り仕切っているのは、こいつということになる。ご苦労なことだ。 国木田は、総務大臣の役目を飄々とこなしている。昔からできるやつだったし、任せておいて問題はなかろう。 新川さんは、年齢構成が若すぎるこの内閣においては、御意見番的な存在だ。 喜緑さんは、あの薄い微笑で対外交渉をこなし、諸外国からはタフなネゴシエーターとして認識されている。 佐々木のところの括弧書きは、俗にいう「副総理」というやつだ。この国難の中で、財政金融をつかさどるのはかなりの激務だが、よくやってくれている。 九曜に文部科学大臣を任せるのは、日本の将来を担う子供たちのためを思うとおおいに不安なのだが……。教育行政が滞りなく遂行されることを祈るばかりだ。 朝比奈さんは、まさに適役だと思うね。ただ存在しているだけで、国民の福利厚生に絶大なる効果がありそうだ。 会長さん(俺はいまだに彼の本名を知らん。みんな会長って呼ぶしな)は、生徒会長時代に培った実務能力で、農林水産大臣の職務を難なくこなしている。 財界の重鎮である鶴屋さんは、まさに適材適所といったところ。あの明るい振る舞いで、日本の景気も明るくしてくれそうだ。 藤原とは個人的にはそりが合わんが、この国難の中ではそんなこともいってられん。嫌味なやつだが、仕事は真面目にこなす。ただ、協調性が足りないのが問題だわな。国土交通省は防災担当機関でもあるから、いざというときは他省庁との連携が重要なんだがなぁ。 なんで谷口が大臣なんぞになれたのか。まあ、ハルヒの気まぐれなんだろうが。環境行政が停滞しないことを祈る。 長門が防衛大臣を担う限り、日本の国防は安泰だ。ひたすらに頼もしい。ただ、仕事をさっさとすませて、国会図書館によく出没するという噂が絶えない。 森さんは、警察組織のトップ。彼女がにらみをきかせれば、日本の治安は安泰だぜ。一方で、「機関」を通じて裏社会も仕切っているという黒い噂が聞こえてきたりも……。 橘京子は、古泉と一緒に内閣を取り仕切っている。SOS党と佐々木党の呉越同舟状態をうまく切り盛りしていくためには、この二人の連携は非常に重要だ。だから、佐々木を異常なまでに持ち上げて、ハルヒの機嫌を損ねるのはやめてほしいのだが。 朝倉涼子は、内閣官房の中では、古泉、橘に次ぐ相当な実力者である。情報・危機管理・安全保障を一手に握ってるからな。本人は防衛大臣をやりたがってたんだが、暴走して他国に戦争でも吹っかけられたら困るので、裏方に収まった経緯がある。 最近朝比奈さんにそっくりになってきた俺の妹は、内閣広報官。これが意外に天職だったらしく、毎日楽しそうに仕事をしている。 ミヨキチは、妹の補佐役といったところだ。妹と仲良くやっているようで、大変結構なことである。 で、俺はハルヒの秘書官というわけだ。ハルヒに振り回される雑用係というポジションは、どこにいっても変わらないものらしい。まったく、やれやれだ。 首相官邸。 「佐々木さんが、涼宮さんに使われる立場なんてありえないのです。佐々木さんこそが首相にふさわしいのです」 「また蒸し返すんですか、あなたは」 橘京子と古泉一樹が、また口論している。 ここ最近、すっかりお馴染みになってしまった光景で、もはや口をはさもうとする者はいなかった。 「第二党が何をいったって、しょせんは負け惜しみですよ」 「今度の選挙では、必ず勝って見せるのです」 橘京子は、ほおを膨らませて不満顔だ。 「せいぜい、頑張ってください。それよりも、例の件、佐々木党内の取りまとめはしてくれたんでしょうね?」 「もちろんです」 国家公安委員会・警察庁。 森園生は、極秘とスタンプが押された報告書を読んでいた。日本国内を跳梁跋扈する国外の諜報員を「非合法に処理」した記録である。昔はスパイ天国などといわれた日本国であるが、森園生が陣頭指揮をとって対策を進めた結果、状況はだいぶ改善されつつあった。 もう一枚の紙を取り上げる。こちらは何もスタンプは押されてないが、極秘文書には違いなかった。なぜなら、それは「機関」の文書だから。 TFEIの動向。天蓋領域の端末には変化は見られないが、情報統合思念体の端末は増員され、政府組織の中に潜入していた。いつでも政府を乗っ取れる体制でありながら、彼女たちは何もしようとしない。観測任務を第一とする態度は不変である。 現在、政府を乗っ取っている立場である「機関」と橘京子の組織としては、TFEIたちのそのような態度は不気味ですらあった。 政府の国防・外交・危機管理を押さえているTFEIトップスリー、長門有希、喜緑江美里、朝倉涼子ですら、人間レベルでなしうる以上のことをしようとはしていない。そして、そのレベルですら完璧人間に近いのだから、文句のつけようもないのだ。 森園生は、二つの文書を丸めて灰皿に置くとライターで火をつけた。情報流出を防ぐ最も手っ取り早い方法だ。 「宇宙人たちは不干渉ということね。なら、未来人たちはどうかしら……?」 そのつぶやきを耳にした者は、誰もいなかった。 厚生労働省。 真面目に書類仕事をこなしている朝比奈みくるのもとに、藤原がやってきた。 彼は、入ってきた途端に盗聴防止装置を稼動させると、口を開いた。 「あんたは、このまま状況を座視してるつもりか?」 「当然でしょ。介入は許可されてないわ。藤原くんだって同じじゃないかしら?」 「何百万人もの人間が犠牲になるんだぞ。それを黙って見てるつもりか?」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターを取り出し稼動させた。 無数の曲線と数式と記号で構成された光の三次元樹形図が空中に展開される。 「実際、それを阻止しようと思えば、介入しなければならない時点は1249箇所。二人だけじゃ、手に負えないわよ。あからさまな規定事項破壊行為だし、介入が全部終わる前に私たちが始末されちゃうわ」 朝比奈みくるは、簡易シミュレーターをポケットにしまった。 光の樹形図が消え去る。 「あるべき未来を守るためには仕方ないわよ」 「そんな未来なんぞ糞食らえだ」 「藤原くんだって分かってるはずでしょ。私たちはこの悪しき世界を守るために存在する悪党だってことは」 「……」 藤原の顔が渋面を形作る。 「それが嫌なら、未来に帰って組織を抜けることね」 国立国会図書館。 読書にいそしんでいた長門有希のもとに、喜緑江美里と朝倉涼子がやってきた。二人とも半ステルスモード。図書館という空間に同化している長門有希はともかく、二人はこのような場所では目立ちすぎるからだ。 長門有希も、半ステルスモードに移行した。 「大規模な情報操作をしない限り、戦争は不可避。その旨は、既に報告済みである」 「私も同じです」 「私も同じよ。三人とも意見が一致するなんて、つまんないわね」 「情報統合思念体からの指令は、観測の継続。積極的な干渉の禁止、つまりは、不干渉原則の維持である」 「穏健派はしぶしぶ同意したみたいですけどね。戦況が悪化した場合に、涼宮ハルヒの力が暴走して危険を招くことを懸念しているようです」 「その方が情報爆発を観測できていいじゃないの」 朝倉涼子はあっけらかんとそう発言した。 「主流派は、今のところ急進派と同意見。ただし、情報統合思念体に危険が及ぶことになれば、穏健派とともに阻止することになるだろう。むしろ、気になるのは天蓋領域の動向」 「周防九曜は、相変わらずのようです。あちらも、不干渉という点ではこちらと変わらないのではありませんか。むしろ、未来人の方が干渉してくる可能性は高いと思いますけど」 「戦争の発生自体は、彼女たちにとっても規定事項であると思われる。そうでなければ、そろそろ動きがないとおかしい」 経済産業省。 鶴屋大臣は、いろんな方面に電話をかけまくっていた。 「……戦争ともなれば鉄鋼の増産は不可欠だからねっ。……生産ライン増強の補助金? いやぁ、お国の財政が厳しくてねぇ。……あっ、そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? あのことをバラしちゃうよっ。……うん、理解してくれて助かるにょろ。じゃあ」 電話を置き、次の話し相手の電話番号を確認する。 「ええっと、次は、○○商事だったかな?」 鶴屋大臣の脅迫電話は、その日一日中続いていたという。 首相官邸。 「ああもう! 今日もくだらない仕事ばっかりだったわね!」 「仕方ないだろ。一国の首相ともなれば避けられない仕事はいくらでもあるさ」 俺は、文句たれるハルヒをなだめる役目だ。この役目は昔から俺のもので、いまだに免れることができてなく、おそらく将来もずっと続くだろうと思われた。 なんたって、俺は、栄えあるSOS党党首殿の夫だからな。今さら免れることは不可能だろうし、その気もない。 「ねぇ、キョン」 ハルヒは俺の背中に手を回して抱きついてきた。 「なんだ?」 「あたし、そろそろ子供ほしい」 「いきなり何言い出すんだ、おまえは」 「いや?」 ハルヒの表情は真剣そのものだった。 「あのなぁ、ハル……」 俺が言いかけた瞬間に、背後から声が降ってきた。 「涼宮内閣腐敗の現場、そんなところだね」 振り向くと、そこには佐々木がいた。 「腐敗といってもこの程度でね。申し訳ない。でも、部屋に入ってくるときはノックぐらいはしてくれよ」 「したよ。ただし、お二人とも自分たちの世界に没頭するあまり、ノックの音を認識することを脳が拒否していたようだけどね」 俺たちは二人して顔を赤くするしかなかった。 「何の用だ?」 「酷い言い方だね。僕は、ここ一週間ほとんど寝ないで、この『戦時財政計画』をまとめていたというのに。ねぎらいの言葉ぐらいほしいところだ」 佐々木は、右手に握っていた分厚い書類を、近くのテーブルの上に無造作に置いた。 「すまん。それはご苦労だったな」 「ありがとう。君にそう言ってもらえると、僕の苦労も報われるというものだ」 何を大げさなと思っていると、背後に寒気を感じて振り向いた。 ハルヒが、剣呑な視線で佐々木をにらんでいる。 「涼宮さん。そんな目でにらまないでよ。別にあなたの夫をとろうなんて思っちゃいないわ。私だって、その辺はわきまえているつもり。キョンは誰にだって優しい人、涼宮さんだって分かってるでしょ?」 「分かってるわよ!」 ハルヒは不機嫌な顔のままだ。 「涼宮さん。お互い、この内閣が続く間だけでも仲良くやりましょう」 ハルヒはしぶしぶ頷いた。 「なあ、佐々木」 「なんだい?」 「この内閣が終わったら、おまえたちはまた野党に戻るのか?」 「当然だよ。キョンだって分かってるはずだ。涼宮さんには、常に張り合える敵役が必要なんだ。今は外敵がいるからいいけど、それがなくなったら、張り合いがなくなる。ならば、その役目は僕が果たそう」 「でも……」 「僕自身も、そういう役回りを結構楽しんでるのでね。おかげで、涼宮さんと出会えてからの人生はとても充実している。では、馬に蹴られないうちに退散するとしよう」 佐々木は去りかけて、再びこちらを向いた。 「キョン。君が愛妻家なのは結構なことだが、自重してくれたまえよ。この未曾有の国難の時期に、首相閣下が産休では、国民に示しがつかない」 俺たちが何かをいう暇すら与えず、佐々木は足早に去っていった。 終わり
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「ただの人間でも構いません!この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に興味のある人がいたらあたしのところに来なさい!以上!」 これはハルヒの新学期の自己紹介の台詞だ それを俺が聞くことができたのはハルヒと同じクラスになれたからに他ならない ハルヒが泣いてまで危惧していたクラス替えだったが俺は相変わらずハルヒの席の前でハルヒにシャーペンでつつかれたり、その太陽のような笑顔を眺めたりしている どうやら理系と文系は丁度いい数字で分かれるようなことはなく、クラス替えであぶれた奴らがこの2年5組に半々ぐらいで所属していた 教室移動で離れることもあるが、大半の時間をハルヒと過ごすことができる これもハルヒの力によるところなのか定かではないが、この状況が幸せなのでそんなことはどちらでもよかった 「キョン!部室にいくわよ!」 放課後俺はハルヒと手を繋いで部室に向かう やれやれ、こんな幸せでいいのかね 「いやはや、やっと肩の荷が降りましたよ、これで涼宮さんの精神も安定するでしょう」 放課後の文芸部室で囲碁の真っ最中、見事なウッテガエシを決めた俺に対し、にやけ面が盤面の状況など興味ないと言いたげに口を開く 認めたくはないが、今回の出来事の発端としての発言をしたのはこいつだ 図らずともこいつの言ったようにことが動いていて癪に触る ちなみにハルヒは長門、朝比奈さんを連れて新入生に勧誘のビラ配りをしている 長門と朝比奈さんはそれぞれ、去年の文化祭で着たウェイトレスと魔法使いの格好でだ また問題にならなければいいが 「末長くお幸せに」 古泉の含み笑い3割、いつもの微笑1割、谷口が今朝俺に対して見せたニヤニヤが6割のムカツク面にどんな嫌味や皮肉を言ってやろうかと考えているといつかのデジャヴのようにドアが勢い良く開いた 「いやぁー!ビラ全部はけたわよ!やっぱりSOS団の一年間の活動は無駄じゃなかったわね!!」 相乗効果で100万Wにも1億Wにもなりそうな笑顔でハルヒが部室に戻ってきた 無駄じゃなかった…か、そうだな、俺もそう思うよ…もちろんいろんな意味でな 「ハルヒ」 俺の呼び掛けにその笑顔のまま俺の方を向く この笑顔がずっと俺のものだなんてまだ実感がわかないな 「これからもよろしくな」 その俺の一言に笑顔に少し赤みがかる そして最高にうれしそうな笑顔で 「当ったり前じゃないの!あたしを幸せにしなかったら死刑なんだからね!!」 びしっと差した指は真っすぐ俺に向けられている いつか俺とハルヒが結婚した時にでも俺はジョン・スミスの正体とSOS団の連中の肩書きでも話してやろうかな、と思った FIN
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「やれやれ」 あの言葉が愛しい もういちど聞きたい でももうあいつはいない ――――――― 北高を卒業、自然とSOS団は解散した。 あたりまえのことでしょうね。だって部活だもん あたしはあたしのレベルにあった大学へ進学した。 ホントはキョンといっしょの大学に行きたかったけど あいつは卒業とほぼ同時に田舎へ引っ越した。 おばあちゃんが亡くなったらしいわ。それでおじいちゃんひとりで可愛そうだからってキョン一家は田舎に帰った。 他の三人とは音信不通。あたしにまわりで変化したことってのは4人がいなくなった。それだけ。 それだけなんだけど、あたしにとってはそれだけなんてことばじゃ済ませられない。だってあたしはみんなの事がホントに・・・。 もうひとつ変わったような気がするのは、なんか最近おもいどおりに事が進まなくなったの。北高にいる時はなんだか自分が望む事が何気に上手くいってたような気がするの。結局宇宙人やら未来人。異世界人や超能力者が現れる事はなかったけど。 どうしてでしょうね 最初の何日かは。キョンと電話しまくったわ。 でも五日目からつながらなくなって・・・。 いったいどういうことよあたしのこと嫌いになったの?? 「・・・・・」 ひとりでイライラしてひとりで虚しくなる。 SOS団があればみんなにあたることもできるのに。 何で今日あたしがなんてこんなに憂鬱かというと、今日はあたしにとっていろいろなことがあった日なの。おかげで朝から思い出し憂鬱よ。朝からそんなことができたのは、今日は大学休んだから。北高を卒業してから3年間ずっとこの日は休んで思い出し憂鬱よ。嫌になっちゃう もうずっと会えないのかもなぁ・・・。 会いたいなぁ・・・。 「やれやれ」 あの言葉が愛しい もう一度聞きたい でもあいつはいない 「・・・・っ!」 あたしは駅前で人目をはばからず叫んだ。 「団長の命令よっ!SOS団集まりなさい!」 まわりの人がかわいそうな人を見る眼であたしを見ている。 「なにしてんのよみんな!早く来なさい!」 笑っている人もいる、でも全然きにならなかった。 「遅れたら・・えぐっ・・・罰金なんだからね!」 私は泣いた。みんなが来ないことなんて知っていた。 でもわたしはみんなに会いたかった。 とくにあのアホ面に・・・。 「うわぁーーんっ・・・・!」 わたしは大声で泣き叫んだ。 「みんなぁー!!古泉君!みくるちゃん!・・えぐっ・・・キョン!」 「わかったから、もう泣くな」 「え?!」 キョンが私を抱きしめていた。 「え?!なんで・・・?なんでここにいるのよ」 「まったく・・・・あれから携帯壊れちゃってな。お前の電話番号もわからなくなっちまったんだ。それでお前をどうやって探そうかと思ってたら、駅前で泣き叫んでるバカみつけて・・」 「そうじゃない!なんでここにいるのよ」 「じいちゃんがこっちに住みたいっていいだしてな」 「じゃ、じゃぁまたキョンここに住むの?」 「いま言っただろうが。そうだ」 「うわぁーん、キョン!!えぐっ」 あたしはキョンを力の限り抱きしめた。 嬉しかった。こんなに嬉しいのはSOS団発足を思いついたとき以来よ。キョン・・・! 「ハルヒ・・」 「ん?なによ」 「俺とはまた奇跡的に会えたわけだがなぁ。残念だが他の三人は無理だろう。お前も十分わかってるはずだ」 「・・・うん。そうよね」 「さすが元SOS団団長様だ。さてこれからどう」 「おひさしぶりですね。お2人とも」 「こっ・・・古泉くん!」 「なっ・・・なんでお前がここにいやがる」 そこにはひさしぶりにみたニヤケ顔があった。古泉くんだ。 「涼宮さんの能力が復活しましてね。また僕も神人狩りの重労働なアルバイトができます」 え?なにいってんの?? 「ってことは・・・」 「ええ、もうすぐ来ると思いますよ」 「あっ!」 ひさしぶりでもなんでも忘れない二人がそこにいた。 「お久しぶりですみなさん。また会えて嬉しいです」 あいかわらずのナイスバディにそれに似合わない可愛い顔。みくるちゃんだった。 「本当にっ・・・本当によかったです。またあえて・・・」 みくるちゃんは泣いていた。それ以上に私は泣いていた。 誰かがハンカチを手渡した。有希だ。 「拭いて。」 「ひさしぶりね・・」 「わたし個人としても大変嬉しく思っている」 「それより今日は七夕ですが。またみんなでなにかやりませんか」 「・・・みんな!」 あたしはみんなに抱きついた。もう絶対に・・・絶対にはなさない! 「SOS団、発進よ!!」 ――――――完
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「遅い罰金」 皆々様ごきげんよう。 本日は大抵の日本人なら惰眠を貪る事でお馴染みの日曜日だ。 が、しかし今日の俺はその人間の枠からしっかりと外れている。 勘違いするな、だからと言って何も禁術を使って人外の存在になったとかそんなんじゃあない。 単純に早起きをしたってだけだ。 日曜日に早起きなんてって声が聞こえてきそうだが、そんな嘲笑は今俺が手にしている幸福感その1、その2にを前にしたら粗末な息子の粗末なカスみたいなもんだ。 「な、何であんたがあたしより先に着いてるのよ!それに罰金って何よ!!」 幸福その1。涼宮ハルヒに罰金刑を言い渡す。 「何でってお前より先に着いたからに決まってるだろ?それとも何か、この世界にはお前より先に集合場所に着いて罰金を言い渡しちゃならない決まりでもあるのか?」 積年の恨み?をここぞとばかりにぶちまかすってのは実に心地が良いもんだ。 今なら禁欲を破った時の仏陀の気持ちが手に取るように分かるぜ。 さあ、ハルヒよとっとと朝飯をおごって貰おうか?この為に早起きして朝飯を抜いてきたんだ、故にペコペコなんだよ。 お腹と背中が創世合体寸前だ。 「く…、キョンの癖に生意気よ……はあ…まあいいわ、今日の所は私の負けを認めてあげるわ」 よしよし、ツンでもデレでもなく素直なハルヒも可愛いぞ。 思わず頭をがしがし撫で回したくなる。 「ほらキョン、あたしがおごってあげるんだから早く来なさい!今日は色々な所連れて行ってくれるんでしょ!?今日は、初デ、デデデートなんだからしっかりしなさいよ!」 幸福感その2。今日はハルヒとの男と女の関係になってから初のお出かけ。 勘違いするなよ、まだ手は出していない。…口は突き出したが。 まあ、今日はハルヒの言う通りデートである。 先日俺はハルヒに対し積もりに積もった感情をぶちまけさせてもらった。 さっきのような恨みではない。 わざわざ青臭い言葉を選ぶなら『恋心』ってやつだ。 詳細は首吊り必死なので省かせてもらうがハルヒはそんな俺の想いを受け入れてくれ今の関係に至るってわけだ。 その時のハルヒの表情といったらもう…墓場に持っていったらご先祖様が嫉妬の炎で墓石を焦がしてしまうんじゃないかって位のもんだった。 ともかく、団長と団員その1って関係でわなく彼氏と彼女って関係になったわけだ。 「ほ、ほらさっさとする!ちんたらしてたら置いてくわよ!!」 まあ、ハルヒにイニシアチブを握られてるって事には変わりないんだがな。 しかし、流石に一人の男としてそいつは情けない状態であるからして… 「分かった分かった今行く…」 「!!!!????」 そっちはイニシアチブを握ってるわけだからお前さんの手を俺が握ってもなんら問題はないよな? それぐらいはいいだろハルヒ? 「…………バ、バカキョン」
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「おい、ハルヒ」 その時、いきなりキョンに声を掛けられて、あたしは背中をぴきぴきっと引きつらせてしまった。な、ななな、何よ!? あんたまさか、ヘンな勘違いしてるんじゃないでしょうね! あ、あたしは別にそんなつもりで、こんな所にあんたを連れてきたわけじゃ…。 「実は今、朝見たテレビの占いコーナーを思い出したんだけどな。今日の風水じゃ、こっちの方角は俺にとって猛烈に運勢が悪いらしいんだ、これが」 「え、そ、そうなの?」 「できれば別方向に探索に行きたいんだが。ダメか?」 「そういう事なら、し、仕方ないわね。じゃあ…」 表面上は不服そうな顔をしてたけど、本音を言えばキョンの言葉は渡りに船で、あたしはそそくさとこの場を離れ―― ――ようとして、はた、と疑問の壁にぶち当たった。ちょっと。ちょっと待ちなさいよ、キョン。あんた、今朝はあんなやつれた顔で遅刻してきたんじゃない。朝の占いなんか見てる余裕あったわけ? そもそも、あんたってば占いとかそういう類は否定はしないけど肯定もしないってタイプだったでしょうが。まさか、あんた…。 気が付けば、あたしは奥歯を軋むくらいに噛みしめていた。くやしい、くやしいくやしい! 今は、あたしがキョンの事を気遣ってやらなきゃならないはずなのに…! それなのに、どうしてあたしがキョンに気遣われてるのよ!? 北高に入学したばかりの頃、つまらないつまらないと窓の外ばかり眺めてたあたしに、キョンは何やかやと話しかけてくれた。頬杖をついてふてくされた表情のままだったけど、あたしは内心、それがとても嬉しかった。 だから、だから今日は、あたしの番だと思ったのに…あたしはすごく張り切ってたのに! 実際にはあたしには何の手立ても無くて、逆にキョンに気遣われてる。あたしの尊厳を傷つけないように、自分の都合を押し付けるようなフリまでしちゃって…なに格好つけてるのよ、キョンのくせに! 後になって冷静に思い返すなら、あの時のあたしは、ちょっと普通じゃなかったと思う。小さな子供が親の前で格好良い所を見せようと背伸びするように、ただひたすら、キョンに自分の優位性を誇示したかったのだ。あいつの優しさに甘えてばかりの自分に我慢がならなかったのだ、と思う。 あとまあ本当に本音の事を言えば、この状況で「逃げ」を選択したキョンに、“女”として依怙地になっていたのかもしれない、けど。 ともかく、あたしが求めたのはキョンに対する逆襲手段であり…現在のこの状況、そして今朝からの出来事を鑑みた結果、あたしの頭の中で、ぺかっと何かが閃いたのだった。 そのアイデアに手段、結果推測などがパズルのようにカチカチとはまっていき、たちまちひとつの仮法案になる。あたしの脳内では『涼宮ハルヒ百人委員会』が召集されて、すぐさま“それ”が提議された。 議事堂の半円状の議席にずらりと居並ぶ、スーツ姿のあたし達。その中で、立ち上がったあたしAが腕を振り、口から泡を飛ばす。 「本当に“これ”を採択して良いのですか? あとで後悔する事にはなりませんか!?」 「正直、その可能性は否定できません。ですがもしも採択しなければ、それはそれで後悔する事になるかとわたしは思います!」 あたしAの質疑に、敢然と答えるあたしB。周囲の大多数のあたしの中からは、やんややんやと歓声と拍手。一部では天を仰ぎ失望の息を洩らすあたしや、口をアヒルみたいにしてケッとか呟いてるあたしも。 「静粛に! それではこれより決議に移ります。賛成の方は挙手を」 議長服のあたしがコンコン!と木槌を叩き、採決が始まる。その結果、賛成87票、反対5票、棄権8票で、“それ”は可決されたのだった。 「うん、決めた!」 満足できる結論に達して、あたしは大きく頷いた。自問自答の時間は、正味1分も無かったかもしれない。 ともかく、一度こうと決めたらただちにスタートするのが涼宮ハルヒ流だ。くるりと踵を返したあたしは、キョンの奴が 「ハルヒ? どうかしたのか?」 と小首を傾げた、そのシャツの胸倉を引っ掴んで、真正面からあいつを見据えてやった。制服のブレザーだったら、ネクタイを捻り上げている所ね。 「いい、キョン? 自分じゃ気付いてないんでしょうけど、あんたは今、ちょっとした心のビョーキなの。分かる?」 「はぁ? 何をいきな」 「黙って聞きなさい! だからこれから、あたしがあんたを治療してあげるって言ってんの! いい? 分かったら四の五の言うんじゃないわよ!」 「お、おい待てハルヒ、そこは…」 四の五の言うなと釘を刺したにも関わらず、ゴニョゴニョ言いかけるキョンの呟きを全く無視して、あたしは標的と定めた建物に突撃した。ほとんど拉致みたいな形だけど、仕方がない。正直、あたしは顔から火が出そうでとてもじっとしてはいられなかったし、それに、ありえないと思いつつも万が一、億が一、キョンに拒否られたらとか思ったら、その…。 えーいもう、仕方がなかったって言ってるでしょ!? キョンの奴には主体性って物がまるで無いんだし! あいつの方からあたしをリードできるだけの甲斐性があれば、あたしだってこんな強硬手段を採ったりはしないのよ、うん! そういうワケで仕方なく、キョンを引っさげたあたしは道場破りみたいな面持ちと勢いで、その建物に乗り込んだのだった。通りには他に何組かカップルがいたけど、こういう時に人目を気にしたら負けよね。じゃあなんでお前の耳や頬はこんなにも火照ってるのかって、そんな事はいちいち訊くもんじゃないわ。 結局の所、そこはあたしがこの界隈に来て最初に看板を発見した白い建物で。外壁に提げられたその看板には、 【デイタイムサービス ご休憩3時間 3200円】 といった記述がなされていたのだった。 「ふうん…これがラブホって所なんだ…」 ちょっとした感慨を込めて、あたしは呟いた。てっきりピンク色の照明なんかがギラギラ光ったりしてるのかと思ってたら、何というか普通のホテルにカラオケボックスを合体させたような感じだ。部屋の広さに比べるとベッドが結構大きくって、あとティッシュやら何やらが脇に置いてあるのが、なんだか生々しい。 「…正確にはファッションホテルだかブティックホテルだかと呼ぶべきらしいぞ」 あたしの手で部屋に放り込まれたキョンが、カーペットに膝をついた格好でげほげほ咳き込みながらそんな事を言う。まったく、役にも立たない知識だけは豊富な奴ね。 などと思ってたら、キョンの奴は下から、じろりといった感じであたしを見上げた。 「やれやれ。俺もいいかげん、団長様の行動の突飛さにも慣れてきたかと思ってたんだが。とんだ思い過ごしだったみたいだぜ。 なんだ? まさか今日の不思議パトロールは女体の神秘を探検よ!とか言うんじゃないだろうな」 困惑ぎみのキョンの表情に、あたしは少しだけ、胸がスッとするのを覚えた。もっともっと、キョンの奴を困らせてやりた…あ、いや、違う違う。今日ばかりはあたしの都合は二の次なんだったわ。 決意も新たに、あたしは両の拳を腰に当てて前に身を屈め、キョンの顔を上から覗き込んでやった。どうにかして、こいつを励ましてあげなけりゃね! 「もし『そのまさかよ!』って言ったら、あんたはどうするわけ」 「なんだって?」 「本当の事を言うと、あたし、前々からあんたの恩着せがましい所にちょっとムカついてたのよね。あたしが何か命令するたびにさ、あんた、諦め顔で『あーもー好きなようにしてくれ』とか言うじゃない。あたし、アレがいっつも気に喰わなかったのよ。 えーと、だから、その…今日はその意趣返しっていうか」 少し言葉を詰まらせながら、あたしはそう喋っていた。う~む、論理展開に若干のムリがあるかも? いやいや、ここは強気で押し通すべきよ。 「つまり! 今は、この場所でだけはいつもの逆で…あたしの事をあんたの好きなようにさせてやろう、って話なのよ。分かった!?」 そう言い切るとあたしはベッドに歩み寄って、キョンに相対するように、ぽすんと腰を下ろした。ミニスカートから伸びる足を組んで、腕組みをして…キョンをまっすぐ見るのはさすがに気恥ずかしいので、フンと顔を横に向ける。 「あんたが、女の子の秘密を知りたいって言うんなら…別に構わないって、あたしはそう言ってるのよ…」 ともかく伝えるだけの事は伝えたので、あたしはそっぽを向いたまま、キョンの出方を待っていた。 ううう、なんともこうムズ痒い気分だわ! 普段のあたしは 「キョン! そこの荷物持ってついてらっしゃい!」 「キョン! ここはあんたのオゴリだからね!」 とか命令形で話してるものだから、こういう雰囲気はどうも落ち着かない。だからって、まさか 「キョン! あたしにエッチな事してスッキリしなさい!」 なんて言えるはずも無いし。 う~、でもあたしが憂鬱だった時にキョンが話しかけてきてくれたように、あたしもキョンの奴を刺激してやる事には成功したはずだわ。ちょっと方法が過激だったかもしんないけど。でもこういうのって、いつかは誰かと経験する事で――。じゃあ、その最初の相手がキョンでも別に悪くはないかなって、あたしは思ったの。少なくとも今の所は、他の誰かとする事なんて想像できないし。 ついひねくれた物言いになっちゃったけど、さっきのセリフだって、決してウソじゃない。いつもはこき使うばっかりで、「お疲れさま」とか面と向かって言う事もなかなか出来ないから…だから今日くらい、こういう形でキョンの労をねぎらってあげたって、バチは当たらないわよ、ね? とにかく、あたしは賽を投げつけてやったわ! あんたはどう出るのよ、キョン!? …と、振ってはみたものの。正直あたしの予想では、キョンが手を出してくる可能性は30%って所かな。「もっと自分を大事にしろ」だとか、当たり障りのない逃げ口上を使ってくるのが一番確率が高い。仕方ないわね。なにしろ、キョンだし。 まあ、あたしとしては別にどっちでも構わないのよ。キョンの奴に、あたしを抱こうとするだけの覚悟があるんなら、それは嬉しい誤算だし。必死になってどうにかあたしを説得しようとするんなら、それはいつも通りのあたしとあいつの関係に戻る、っていう事だもの。 どっちにせよ、あたしがあんたの事を気に掛けてる、その気持ちだけは伝わるはずだとあたしは思っていた。だから、悪いように事が転がったりするはずがないとあたしは信じていた。でも実際には――キョンの反応は、あたしが想像し得なかったものだったのだ。 「…なあ、ハルヒ。『好奇心、猫をも殺す』って言葉、知ってるか?」 「えっ?」 「今のお前のためにあるような、外国のことわざだよ」 むくり、と身を起こしたキョンは、そうしてゆっくりあたしの方へ歩み寄ってくる。部屋の照明は薄暗くて、その表情はハッキリとは見て取れなかったけど、ただなんとなくキョンの体の周りに、うすどんよりとした空気が漂っている、ような気がした。 「キョ、キョン?」 あたしの呼びかけにも応じず、キョンは黙ったままこちらに向かって片手を差し出してきた。あたしの左頬に、キョンの右の手の平が添えられる。 いつものあたしだったら、ここはドキドキしまくりな場面だろう。心臓の鼓動をなだめるのに必死なはずだ。でも今は何か、何かが違う。ちっとも心がときめかない。どうしちゃったの、キョン? 今のあんた、何か、こわいよ…? 「先に謝っとくぞ、ハルヒ。すまん」 少し右手を引きながら、キョンがそう呟く。それからすぐに、ぱしん、という乾いた音があたしの顔のすぐ傍で起こった。 頬をはたかれたのだ、という事を理解するのに、あたしの脳は、それから数十秒の時間を要した。 痛くはない。多分、トランプやら何やらの罰ゲームでしっぺやウメボシを喰らった方が痛い。ただ、キョンに叩かれた、という事実に頭の中が真っ白になってしまっているあたしに向かって、キョンはうめくような声を絞り出していた。 「でもな? 俺にだって許しがたい事ってのはあるんだよ。いいか、これだけは言っとくぞ。俺は間違っても、お前の身体が目当てでSOS団の活動に参加してたわけじゃない!」 あたしはただ、唖然としていた。あたしを睨み据えるキョンの瞳には、確かに憎しみと哀しみの色が入り混じっていた。 「ご褒美に身体を自由にさせてやるだと? 馬の目の前にニンジンでもぶら下げたつもりかよ。そうすれば男なんか、みんな大喜びだとか思ってたのかよ!? 俺も、そんな野郎の一人だと思ってたのかよ――。ふざけんな、人を馬鹿にするのも大概にしろ!!」 いつの間にか、キョンの感情のボルテージは急上昇していた。その怒声が、あたし達のかりそめの宿の中いっぱいに響き渡る。 その後、急速に静寂が訪れて…あたしの耳には備え付けの冷蔵庫の低いブーンという駆動音だけが、ただ虚ろに届いていた。 どうして――どうしてこんな事になってしまったのか。 キョンに頬をはたかれたショックに引きずられながら、それでもあたしは、ひたすらに考え続けていた。 躁鬱病だか何だか知らないが、たかだか心の病気くらいで女の子に手を上げるような、キョンは決してそんな人間では無い。何か、何か理由があるはずなのだ。こいつがここまで激昂するワケが。その証拠に、あたしを見下ろしているキョンの表情は、ひどく悲しく、悔しそうに見える。まるで自分の尊厳を、根こそぎ踏みにじられたような…。 そこまで考えた時、あたしはさっきのキョンのセリフをもう一度思い返してみた。キョンの立場になって、もう一度その意味を考え直して――そして、やっと自分のあやまちに気が付いた。 ああ。ああ、そうか。そうだったんだ。キョンの奴は…口ではなんだかんだ言いながら、こいつはこいつなりに、SOS団の活動に誇りを抱いていたんだ…。 そうよ、あたし自身が何度もキョンに言ってたんじゃない。この不思議探索はデートじゃないのよ、真面目にやんなさい!って。 キョンの奴が大した成果を上げた事はなかったけど、それでもちゃんとSOS団の一員としての自覚は持ってたんだ。こいつはその誇りを、胸に秘めていたんだ。 なのに団長たるこのあたし自らが、午後のパトロール任務を放り出して相方をラブホに連れ込むようなマネをしたら、それは「ひどい冒涜」だと受け取られても、仕方がなかったかもしれない。ごめんね、キョン。あたしにも反省すべき点はあったわ。でも、でもね? すっくとベッドから立ち上がったあたしは、真正面から、毅然とキョンを睨み返してやった。 「『ふざけるな』ですって? 『馬鹿にするな』ですって――? それはこっちのセリフよ、キョン!!」 啖呵と共に、左手でキョンの右腕を掴み、右手をキョンの左脇の下に差し込む。そのままくるりと回転して、あいつの体を腰の上に担いだあたしは、渾身の力でキョンを前方に投げ飛ばしてやったのだった。 女子柔道部に仮入部した際に憶えた技だ。確か『大腰』だっけ? まあ技の名前なんてどうでもいいけど。とにかく、ごろんごろんと面白いくらいの勢いで投げられ、転がっていったキョンは、部屋の出入り口扉の横の壁にぶつかって、ようやく止まった。 一瞬の事で何が起きたのかまだ分かっていないのか、尻餅をついた格好で茫然自失といった顔をしてる。ふふん、いい表情ね。 「人を馬鹿にしてるのは、キョン、あんたの方でしょうが!」 「…なんだって?」 「あたしは、涼宮ハルヒはね! 明日後悔しないように、今を生きてるの! こうしたら得するだろう、こうしたら損するだろうとかじゃなくて、いま自分がどうしたいかを第一に、ひたすら前進してるの! その決断の早さに凡人のあんたがついてこられなくて、戸惑わせちゃった事は一応謝っとくわ。だけど、だけどね!」 心の中の憤りを包み隠さず、あたしはキョンの奴を大喝してやった。 「『好奇心、猫をも殺す』ですって――? そっちこそふざけないでよ! あたしが本当に、ただの好奇心であんたをホテルにまで連れ込んだと思ってんの!? 見損なうな、このバカっ!!」 さっき、キョンは『俺にも許しがたい事はある』と言った。なら、あたしの許しがたい事はまさにこれだわ。キョンの奴が、あたしの決意と覚悟をまるでないがしろにしてるって事よ! 「確かにね!? あんたとここに入って、そーゆー事しようってのは、ついさっき思いついたわよ! 後先考えてないって言われたら、否定できない部分はあるわよ! でもね! あたしだってちゃんと考えたのよ! あんたとそーゆー関係になっちゃってもいいのかって! 初めての相手が本当にあんたでいいのかって…。百万回も! それ以上も! 頭の回路がぐるぐるぐるぐる回って、しまいにはバターになるんじゃないかってくらい真剣に考え詰めたのよ! その上で、あたしはあんたと今、ここに居るのに…それなのにッ!」 さっきのお返しとばかりに、あたしは出来うる限りの鬼の形相で、キョンの奴を見下ろしてやった。もうこうなったら徹底的に糾弾よ糾弾、アストロ糾弾よ! 「あたしだって、こんな事するのはすごく恥ずかしかったのよ! でも、ちょっとしたショック療法っていうか――つまんない悩み事なんて忘れちゃうくらいの刺激を与えたら、あんたが少しは元気を取り戻すんじゃないかと思って…。他にあんたを元気づけてあげられる手段を思いつけなくって、それに、それにそもそもは、あんたがあんな事を…言ったから、だから――」 あれ? おかしいな? キョンの奴を、これでもかってくらい締め上げてやるはずだったのに。気が付くとあたしの言葉は途切れ途切れに、言ってる内容もなんだか支離滅裂になっていた。 そして、頬の上をはらはらと伝わっていく冷たい物…。これは…悔し涙? ちょっと、ダメよ! 何やってんのよ、あたし!? ここは団長としての威厳を見せつけて、キョンの誤解をねじ伏せてやるべき場面でしょ! 何を普通の女の子みたいに泣き崩れそうになってんの!? しゃんとしなさい、しゃんと! ああ、でも無理だ。元々あたしは、感情をセーブするというのが苦手なのだ。ダムが決壊したみたいに、溢れはじめた想いはもう、止められなかった。 「だからあたしは、思い切って一歩踏み出したのに! それをあんたは…男なら誰でもみたいな…言い方をして…。 あんたはただの下っ端だけど…栄えあるSOS団の、団員第1号なのに…。あたしの最初の仲間だったのに…そのあんたに、そんな…風に、思わ…てた、なんて…」 心のどこかで、あたしは、自分が勇気を出したらキョンはきっと応えてくれると信じていた。そう期待していたのだ。でも、その期待はあっけなく裏切られてしまったから、だから――。 「もう…知らない。知らないわよ、あんたの事なんて! このバカ! バカキョン! あんたなんか、一生ぐじぐじ腐ってればいいのよ!」 自分があんまりみじめで、この場にはどうしても居たたまれなくて。あたしは小走りに駆け出した。キョンの横の扉を通り抜けて、表へ飛び出した。 ううん、違う――そうしようとしたのだ、だけど。 ドアノブを回そうとしたあたしの手に、あいつの手が重なっていた。消え入りそうな微かな声で、でも確かに、あいつはこう言った。 「悪い…。すまなかった、ハルヒ…」 次のページへ
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「覚えてないのも当たり前ですよね、だって私が記憶をけさせたんですから」 俺はこの一言に、愕然とした。なんだって? 内から込み上げる怒りという衝動を抑えつつ問いただすことにした。 「何故、俺が記憶を消されなくてはならないんだ?」 なんとか抑えたものの、表情までは抑えれなかったかもしれん。 少しの沈黙が、俺を不愉快にさせる。自然に拳に力がはいってしまっていた。 俺の目の前の少女は不適な笑みを浮かべ、 「あなたは、涼宮ハルヒの鍵であり、佐々木さんの鍵でもあるからです」 俺は自分の耳を疑った、佐々木?なんで佐々木が? それに鍵だって?なんの事かさっぱりだが、古泉もそんなことを言っていたような気がする。 少女は続けて、 「私は佐々木さんの友達、いや。佐々木さんとの契約者とでもいったほうがいいでしょう」 契約?なんのことか解らないが、どうやらこいつは佐々木と少なからず縁がある者らしい。 「あなたはね、私の計画とは違う動きをされてもらっては困るのですよ」 さてね、俺がなにしようがお前には関係ないし、指図されるのはごめんだね。 俺は皮肉を込めて言ったつもりだが、少女は気にすることなく続けた。 「あなたが佐々木さんを裏切るような事をするからいけないのです。 あなたは佐々木さんだけを見ていればよかった。そうしたら、世界は幸せになれたのに。 涼宮ハルヒにあの能力を持たせていればいずれは世界は滅んでしまう。 彼女は感情を露にしすぎですし、なによりコントロールできていませんから」 と饒舌に語りはじめるそいつを俺は黙ってみていた。 それもそうだ、ここ数日で俺の周りが目まぐるしく変化しているからだ。 これで混乱しないほうが普通ではない。 「佐々木さんはいいました、あなたを手に入れられるなら。 他はなにもいらないと、だから私は彼女にあなたを与える計画を企てたってところです。 それでも、私一人じゃ出来ないことなので彼女に協力していただきました。」 少女が指を指した方向に目をやった、しかし最初はそこに何が在るか解らなかった。 目を凝らしてみると、確かにそれはいた。俺はこいつを知っている。 だが記憶に靄がかかり、鮮明に思い出すことは不可能だった。 俺が呆気に取られた表情を浮かべていたのか、少女はクスッと笑った。 「あなたの側に未来人の子が一人いますよね。実は私の側にも一人います。 彼が言うには涼宮ハルヒが能力を持ち続けるのは規定事項だ。というんですよ。 でも、それが事実であれば私達はただの脇役でしかなくなっちゃいますよね。 私はね、未来は与えられるものじゃなく造るものだと思っているんです。 これは私達の組織の創意でもあるんですが。 そう、与えられなかったが為にそれを欲するのは至極当然の事だと思うんですよ。 それに、彼ら未来人は過去を固定する為だけに暗躍するんですよ。 可笑しいですよね、未来から来てるならその未来が確立されているはずのに、 だから私達の考えでは、「過去」つまり現在に当たるのですが、 実にあやふやなものなのじゃないでしょうか。あなたもそうだったはずです。 なにも告げられずにただ言われたままに動いて未来を確立させられていた。 とはいっても、今のあなたは覚えていないでしょうけど」 俺は自分の知識以上の事を言われ、更に混乱しはじめていた。 それに、頭も割れそうに痛み出してきた。くそ、なんだってんだ。 少女は笑顔を殺し、俺の側に歩みよってきた。 「だから、私は未来を変えたいと思うんですよ。だからそれにはあなたが必要なんです」 というと、少女は足を翻し背を向けた。遠くに佇む得体の知れないものになにか話しかけているようだが。 ここで逃げ出せばよかったものの、強張る体と痛む頭の所為で俺は身動きできなかった。 少女はこちらを振り返り話を続けた。 「あなたを助けにくる人は誰もいません。彼女に結界を張って頂いているので、 長門さんも気付いていないはずです」 長門だって?俺は痛む頭を支えながら少女に問いかけた。 「あら、今のあなたは聞いていないんですか?まぁいいでしょう、教えてあげます。 彼女は対ヒューマノイドインターフェイス、情報統合思念体が派遣したアンドロイドです。 アンドロイドといっても、体を構築しているものは私達と一緒らしいんですが。」 なんですか、そのなんたら思念体っていうのは。くそっ訳がわからなくなってきた。 俺が困惑の表情を浮かべると、少女の顔付が変わった。 「そろそろ始めましょう。これからあなたにはただの人形になって頂きます。勿論、 これから喋ることも出来なくなると思います。本当はすぐ死んで頂きたいんですが、 そうするとかなりの確立で情報爆発が起こる可能性があるので、 無駄な事は私達は望んでいないのです。情報爆発のタイミングが必要なんですよ。 だから、あなたにはそれまで生きた屍になって頂きます。」 はは、何を言い始めるんでしょうこの人は。 と笑っている場合ではない、はやくここから逃げないと。 「無駄ですよ、周防さんお願いします」 少女がソレの名前を読んだその瞬間、一瞬で俺の目の前にきたソレは無機質な表情をしていた。 その曇ったガラスみたいな瞳に俺が映りこんでいた。 あぁ、俺は今恐怖に駆られているんだ。それは絶望でもあった。 ソレの手が俺の頭を掴み、何かを高速でつぶやき始めた。 その瞬間俺の頭の中が掻き乱されるような激痛が走った。 「やめ、やめろ…うがぁが…」 俺は声を張り上げることすら不可能になっていた。 さっきまであんなに幸せな時間を過ごしていたのに、脳裏に浮かんだ映像が全て消えていく。 だんだんと意識が薄れ、俺は気を失った。 どれくらい眠っていたんだろう、ピッピッっという電子音で気が付いた。 俺の目の前には真っ白い天井があった。ここはどこなんだ。 少し考えにふけっていると、唐突にそれは訪れた。 俺は、誰だ。 言い知れぬ恐怖と、絶望が俺を襲った。
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谷口こと、コードネーム『ジャッカル』がハルヒに瞬殺されたその日の夜、 4人の男女が一同に会していた。 世界のカップルを撲滅させることを目的とした「しっと団」の緊急会合である。 「たにぐ……もとい、『ジャッカル』がやられたというのは本当か?『スネーク』。」 「『ジャッカル』は、涼宮ハルヒにやられたようですな。」 『スネーク』と呼ばれる男は、淡々と説明をする。 「チッ……役立たずが。」 「そう言わないの『フォックス』君。彼がダメってことぐらい、分かってたことじゃないの。」 「しかしだな『キラー』、まさかここまでの役立たずだとは……。」 「彼はちゃんと役に立ってくれましたよ。」 『トゥモロー』は穏やかにそう言った。 言い合っていた『フォックス』と『キラー』、そして『スネーク』が『トゥモロー』を見る。 「彼に涼宮ハルヒを倒すことなんて期待していません。 彼の役割は涼宮ハルヒをセントラルタワーにおびき出すこと。 この計画を伝えれば彼女のことです、きっと首をつっこむはずです。」 「しかし『トゥモロー』。彼女を呼び出す必要はどこに?」 『スネーク』が疑問を呈した。それに『トゥモロー』は、不敵な笑みを浮かべながら答えた。 「彼女がいないと意味ないんですよ……」 谷口が電波なことを言った翌日、俺とハルヒは部室で古泉、長門、朝比奈さんに昨日あったことを伝えた。 「ふぇ~、まさかそんなことがあるんですかぁ~?」 「もし本当なら、これは問題ですね……」 「……。」 古泉の言う通りだ。冗談にしちゃタチが悪すぎるぜ。 「というわけでみんな!当日はそこに乗り込んで、計画を阻止するわよ!!」 「ひぇ~、で、でも危なくないですかぁ?」 「何言ってるのみくるちゃん!私達がやらないで誰がやるのよ!!」 警察の人とかに任せればいいんじゃないか? 「何言ってるの!警察に言ったって信じてもらえるわけないでしょ! 私達がやらなきゃ!」 「あのなあハルヒ。最近ではネットにウソの爆破予告があったって警察は動くんだぞ。 事情を説明すればきっと……」 「私も彼女と同意見。」 「……長門?」 長門の意外な発言に驚く俺。 長門なら、警察も動いてくれることぐらい知っているはずだが…… 「ほらね!有希もこう言ってるのよ!当日はいつもの場所に集合! その後みんなでセントラルタワーに乗りこむわ!」 やれやれ……どうやら俺達がやることに決定しちまったらしい。 まあいざとなったら長門がいるし、大丈夫だとは思うが……。 帰り道、俺は長門と古泉と一緒に歩いていた。ハルヒと朝比奈さんは別の方向だから道は別だ。 さて……ハルヒもいなくなったことだし、ハルヒの前じゃ聞けないことを聞くとするか。 「古泉、今回の件についてどう思う?」 「さて、僕はなんとも……ただ、『機関』でそういう動きが無いことだけははっきり言えます。」 「なるほど。つまり今回は『機関』は関係無いということか。」 「いえ、そうとも言い切れません。」 ん?どういうことだ。機関では動きが無いんじゃなかったのか? 「それはあくまで『機関』全体としての動きです。個人の行動までについては把握できていません。」 「つまり『機関』の人間もその……「しっと団」とやらのメンバーの可能性があるってワケか。」 「ええ。もちろん、あくまで可能性としての話ですけどね。」 可能性であってほしいね。『機関』の連中はなんというか、べらぼーに強そうだからな。 「長門は、どう考えてる?」 少し気になることがあった。先程の長門の態度だ。 警察に相談することを止めたのには何か理由があるのだろうか? 「……先程から「しっと団」という組織に関して情報探索を行っている。」 「マジか。それで何か分かったか?」 「無理。何物かによって情報プロテクトがかけられている。」 「つまり長門さんの力による介入を、何物かがブロックしているということですか?」 「そう。そしてそのようなことが出来る存在は限られている。 私と同じように、情報統合思念体と繋がりのある存在……」 「ってことは、長門と同じ対有機なんちゃらが「しっと団」にいるってことか?」 「そう。」 おいおい……冗談じゃねぇぞ。 さっきは長門がいるから大丈夫だと思ったが……こりゃそう安心も出来ないんじゃないのか? 「大丈夫。私が守る。」 頼もしいぜ長門。 「ふふ、それは無理というものだよ。」 ん?誰の声だ。聞き覚えがあるよな無いような…… とそこで、前方から歩いてくる男の存在を確認した。お前は……! 「生徒会長!」 「これは奇遇ですね。こんなところで会うとは。」 古泉があいさつをする。しかし会長は鼻で笑い流した 「とぼけるのはよしてもらおうか。貴様らが計画を阻止しようとしていることは知っている。 そして今の俺は生徒会長ではない。「しっと団」メンバー、コードネーム『フォックス』だ。」 ……またコードネームか。頭が痛くなる。 「『トゥモロー』は涼宮ハルヒがセントラルタワーに来ることを望んでいる。 だから今は始末することは出来ない。忌々しいことだがね。 だが貴様らは別だ。この場で始末してやろう!」 おいおい、まさかこんな街中でバトルするつもりじゃないだろうな! 通行人だっているんだぜ!? 「大丈夫。情報操作は得意。」 そうかい。そりゃ安心だね。別の意味で不安だがなっ! 「まずは貴様からだ!古泉一樹! 知ってるぞ!貴様最近、そこのヒューマノイドインターフェイスといちゃいちゃしてるらしいな!」 「おや、ご存知でしたか。」 「忌々しい!喜緑君は私がいくらアピールしてもまったくなびいてくれないというのに! 何故貴様だけ……!!」 うっわあ……流石は「しっと団」。全身から負け組のオーラがこれでもかと言うくらい出ている…… 「それはあなたの魅力が足りないのでは?」 「黙れ!そもそも身分をわきまえろ!宇宙人なんかと付き合ってどうする!」 言いたい放題だな……って長門さん?何をしているのですか? 長門「…@@@@@@」 とその時であった!会長が古泉に攻撃をしかける! 古泉はとっさに右手で防御し……防御したら 「うわあああああ!!!」 会長が遥か彼方へ飛んでった。……なんだこれ。 「………」 古泉も口をあけたまま呆然としている。珍しい表情だな。 長門「……古泉一樹の右腕をブースト変換、ホーミングモードにした。」 つまりアレか。野球大会の時のバットと同じようになったってわけか。古泉の右腕が。 しかしそこまでせんでもよかったような気もするが…… 「問題無い。それに、私と古泉一樹の関係をとやかく言われたくは無かった。」 なるほど、宇宙人と付き合ってどうするとか言われたのに腹が立ったってワケか。お熱いことで。 長門を怒らせるのはマズいってことがよーく分かった。 「と、とにかく、これで「しっと団」は残り3名ということですね。」 ようやく落ち付きを取り戻した古泉がそう言った。顔が若干赤いのは見逃してやる。 さて、クリスマスイブは2日後だ。いよいよ「しっと団」との決戦が始まる! ……って煽り文句をつけてみても、なーんかカッコつかないな。やれやれ…… 続く!
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翌朝、少し早く教室に着いたオレは、先に来ていたハルヒを見て驚いた。 どういう風のふきまわしか、ハルヒは中途半端な長さの髪を後ろでひとつにまとめていた。 キョン(あれもオレの願いだったのかな?) 席に着くと、ハルヒが話しかけてきた。 ハルヒ「ねえアンタ、昨日あれから有希となんかあったの?」 キョン「い、いや、特になんもねえよ」 ハルヒ「私気づいたら部室で寝てたんだけど、その間有希をどっかに 連れまわしてたんじゃないでしょうね?」 なかなかするどいヤツだ。たしかに、つかの間のツーリングを楽しんだり、 倉庫の中を探検したり、異世界に飛ばされたりといろいろしていたことは事実だ。 キョン(別の長門だけどな) キョン「そんなことしねえって」 ハルヒ「あ、そう。・・ところでアンタ、文芸部に興味あるんだって?」 キョン「どういうことだ?」 ハルヒ「有希がね。キョン君・・アンタを文芸部に誘えないかってね。前からずっと うるさかったのよ」 キョン(・・・・・) ハルヒ「で、今ね。3年の先輩が卒業しちゃって、部員数が足りない状態なのよ。 私と有希、2年の朝比奈先輩がたまに顔出してくれるから、今んとこ3人しか いないってわけ」 キョン(朝比奈さんも文芸部員だったのか) ハルヒ「まあ今決めろっつっても難しいだろうから、ヒマだったら放課後ウチに 来てみなさいよ。わ、私はどっちでもいいんだけどね・・有希が喜ぶと思うわ」 キョン「そ、そうか?」 はからずともSOS団のメンバーが大半集まってしまうことになるようだ。もしかしたら 古泉も・・・来るわけないか。 ハルヒ「・・・アンタ、少し雰囲気変わったわね」 キョン「・・どこがだ?」 ハルヒ「うまく言えないんだけど・・その、なんか数年ぶりに会ったって感じがするわ。 ・・・まあそんだけよ。特に深い意味はないからね」 少し照れながらハルヒは言った。 少し教室を見渡すと、あの朝倉もいた。他の女子に囲まれて、にこやかに話をしている。 こっちは本物の朝倉だろうな・・・ 本人は無関係とはいえ、何回も殺されそうになった相手が同じ教室にいるってのは かなり違和感がある。まあ、もうしばらくの辛抱だ。 休み時間に教室を出ると、不意に声をかけられた。 「また会いましたね、キョン君」 声のする方向を見ると、そこには古泉が立っていた。いつもと変わらない微笑みは・・ っておい!どういうことだ!?本物の古泉は不良少年だったはずじゃ・・・ 古泉「驚きましたか?いやあ、僕もいまだに信じられないんですが、気づいたら こうなっていましてね・・・昨日あなたにお別れを告げて実体を失った後、 目を覚ましたら例の倉庫にいたってわけです」 キョン(倉庫にいたのは本物の古泉のはずだ・・まさか) 古泉「本物の僕はあなたによっぽど嫌われていたのかもしれませんね。 まさか僕が本当に本物と入れ替わってしまうとは想定外でした。 さて、これもあなたの願いってことになるんでしょうか」 キョン「・・お前、もしかして超能力も使えるのか?」 古泉「今のところ能力はないようです。またどこかで閉鎖空間が発生すれば、 再び使えるようになるのかもしれませんね」 なんてことだ。昨日ハルヒと一緒に願ったことがいきなり実現してしまうとは・・・ オレは自分がかけた願いに、はやくも後悔しはじめていた。 超能力者だけでも除いておけばよかったかな・・・ 古泉「放課後、僕も部室に向かいます。あ、そうそう。今の世界では僕は 成績優秀の転校生ということになっていますから。よろしくお願いしますよ」 なんだそりゃ。自慢か?オレだって今や成績優秀者だぞ・・・一時的にだけど。 しかし、時空改変の結果がこうも早く現れるとは思わなかった。 ・・・ちょっと待て。てことはもしかして、世界は今や宇宙人や未来人や超能力者が そこらをうろついててもちっともおかしくない状態になってしまったのか? いまさらながらオレはとんでもないことをしてしまったんじゃ・・・ 放課後、オレは文芸部部室まで足を運んだ。部屋にいた長門はとびきりの笑顔で オレを迎えてくれた。無表情の長門に慣れていたせいか、少し違和感があるが 笑顔の長門もなかなか可愛いじゃないか。 しばらくしてハルヒや朝比奈さん、そして古泉がやってきた。 ハルヒはオレと古泉にひとしきり活動の説明をした。その後、長門の強引な勧誘もあって オレたちはうやむやのうちに文芸部へ入部することになった。 キョン(なんだかSOS団再結成って感じだな) こうして、再びオレはハルヒたちと同じ時間を過ごすことになった。 やがて学校は春休みに突入し、しばしの休息の時間が訪れた。 キョン(今日は文芸部の集まりがある日だったな) 昼の1時に集合という予定だったがオレは早めに家を出たため、学校に着いたときは まだ正午にもなっていなかった。 部室に入ると、長門がいつもの場所で本を読んでいた。 キョン「よっ、長門。今日はえらく早いじゃないか」 おもむろに顔をあげた長門は、じっとオレの顔を見た。 キョン(長門・・・?まさか!?) 長門「久しぶり」 キョン「長門!?お前どうして・・」 長門「緊急事態。あなたの力を借りたい」 そこにいたのは、なんと再び帰ってきた宇宙人、長門有希だった。 オレが唖然としていると、部室のドアが開いて古泉と朝比奈さんが入ってきた。 古泉「キョン君、大変です。この近くで再び大規模な閉鎖空間が発生したようです」 キョン「閉鎖空間って、またお前そんな唐突に・・じゃなくて、朝比奈先輩の前でわけのわからんことを言うな」 みくる「あれ?キョン君、もう私のこと忘れちゃったの・・?」 キョン「!!まさか、朝比奈さん・・?」 みくる「うん。長門さんから非常事態って聞いたもんだから、無理して出てきちゃった♪」 キョン(非常事態のわりにうれしそうなのは気のせいか・・・) 古泉「昨日の晩から僕の能力が復活していたんですよ。長門さんから話を聞いて 納得しました。元時空改変能力者としてあなたの力が必要です」 そのとき、部室のドアが大きな音とともに勢いよく開かれた。まさか・・・!? ハルヒ「キョン!大事件よ!!今からSOS団総出で調査しに行くわ!」 キョン(ハルヒ!?・・ハルヒまで戻ってきたのか) ハルヒ「なにボケッと突っ立ってんのよ!はやくしなさい」 ハルヒはオレの手をつかんで強引に部室から出た。オレの顔を見ると、ハルヒは 満面に笑みを浮かべた。 ハルヒ「私たちの願い、ちゃんとかなったでしょ?」 キョン「・・ああ、そうだな」 ハルヒ「それじゃ、みんな行くわよ!覚悟はいいわね!」 どうやらオレたちの願いは完全に現実のものとなってしまったようだ。 世界は一体これからどうなってしまうのか。ひとつ言えることは、確実に面白い方向へと 進んでいくだろうということだ。・・・まあそういうことにしておこう。 まだまだオレたちSOS団の活動は終わりそうにない。 涼宮ハルヒの消失(偽) -fin-
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第 三 章 太陽の光で目が覚めた。 微かににせせらぎが聞こえる。どうやら俺は眠っていたようだ。 太陽の位置からすると、昼前か昼過ぎあたりだろうか。 ちょうど木影になっていた俺の顔に日光が差してきていた。 季節はどうやら真冬のようだった。一月か二月か。空気が肌を刺すように冷たい。 ――ここはどこだ? 起き上がり、辺りを見回してみる。少し頭が痛む。 小川と遊歩道に挟まれた、並木が植えられている芝生の上に俺はいた。 公園のようだった。見慣れない風景。いや、見慣れないというのとは何か違う。 奇妙な感覚。 ――今はいつだ? 腕時計を見た。それは二月二十四日の午後二時五分を表示していた。 俺の格好は春先を思わせるような軽装だった。 真夏の格好よりは幾分マシとは思ったが、やはり少々寒さが身にしみる。 何だ、この違和感は? そうして俺は、場所や時間よりも重大な疑問に思い当たった。 ――俺は誰だ? 思い出せなかった。 冷静に考えてみたところ、どうやら俺は記憶喪失という状況におかれているようだった。 俺は目の前にあった遊歩道のベンチに腰掛け、所持品を調べてみた。 あったのは財布と手帳。 身につけているものはデジタル表示の腕時計とサングラス、それに季節外れの衣服。 財布に何か手がかりになるものが入っていないかと調べてみたが、俺の身元を確認出来るものは何ひとつない。 手帳も同様だった。 手帳のスケジュール欄の書き込みは九月十三日で始まり十月二十日で終わっていた。 それはそもそも予定ですらなく、以下のような意味不明の単なるメモ書きだった。 9月13日 29D03H48M 9月14日 29D03H57M 9月15日 29D04H08M 335×24×60÷20=24120 9月16日 29D04H18M ・ ・ 10月14日 01Y01M10D 10月15日 01Y01M12D ・ ・ 10月20日 06Y00M05D こういった書き込みが十月二十日まで一日も欠かさず毎日続いていて、十月二十一日の日付には赤い丸印が記されていた。それ以降の日付は空白だった。 一体何だこれは? アルファベットはおそらく年月日や時分を表していて、数式にも24×60という数字があ ることから、何か時間に関係することを書き留めているように思える。 これは俺が書いたものなのか? 試しに同じ字を手帳に書き込んでみた。同じ筆跡。俺の字に間違いないようだった。 せめて、日記のようなものでも書いておいてくれればありがたいのだが、どうも俺にはそう いう習慣はないらしい。 手帳のページを繰ると、後半のメモ欄に携帯電話の番号と住所が書かれてあった。 その番号も住所も、俺には全く心当たりはなかった。 俺は今まで何をやっていたんだ? 何となくだが、俺には何かしなくてはいけない重要なことがあったように思える。 だが、それは何だ? 足元を眺めながら俺はしばらく考えてみた。三十分ほどそうしていたが、思い出せることは何もなかった。 とにかく今の俺にとって必要なのは、何でもいいから情報を仕入れることだ。 公園を出てしばらく歩いた俺はコンビニエンスストアを見つけ、新聞を買ってみた。 日付はやはり二月二十四日。 手帳のスケジュールの日から、およそ四ヶ月が経過している。 手帳を四ヶ月間全く記入しなかったということだろうか。 それまでの日付は一日の抜けもなく毎日埋っているにもかかわらず。 だが、俺が四ヶ月以上記憶とともに意識を失っていたという推測はさらにありえないことだった。 一体どうなってんだ? 新聞の記事を読んでも特に手がかりになるようなものは見出せなかった。記事のほとんどはあまり理解出来なかったしな。俺の頭はどうもあまり出来がよくないらしい。 そしてまた途方に暮れた。 公衆電話を見つけ、手帳に記されていた番号に架けてみたが、現在その番号は使われていないというメッセージが返ってくるだけだった。 寒さに耐えかねた俺は、商店街の洋服店で適当な上着を買い、見覚えのある風景でもないかと、周辺を歩き回った。 商店街を出て二時間ほど歩いただろうか。辺りが暗くなり始めている。 腕時計の数字は夕方の五時過ぎを表していた。 行くべきところも解らず、ただ呆然と歩いていた俺は、いつしか人気のないところに迷い込んでいた。 いや、迷い込むという表現は適切じゃないな。 今の俺には知っている場所がどこにもなく、つまり俺は常に迷っているのだ。 不意に、右奥の路地の方から、口論をしているような声が聞こえた。 路地を覗いてみる。数人の男と、中学生と思われる長髪の少女がそこにいた。 少女の進路前方を塞ぐ男たち。三人だ。しばらく何かを言い合った後、男の一人が少女の肩を強引に掴み、少女を拘束しようとする。 少女は素早い動作でその男の手首を取ると、脚の付け根まで届こうかという長髪がふわりと揺れた次の瞬間には、男が少女の後方に吹っ飛んでいた。合気術かあるいは柔術か、どちらにせよ凄まじい身のこなしだ。 だが、投げられた男も他の二人も、それでひるむような気配はなかった。 じりじりと少女との間合いを詰める。 俺は急いで元の道に戻り、置かれてあったゴミバケツを見つけるとそれを左脇に抱えた。 路地まで助走をつけ、角を曲がる遠心力も使って、それを男たちに思いっきり投げつけた。 空中で蓋が取れ、逆さになったゴミバケツは内容物を散乱させながら放物線を描く。 蓋が手前の一人に、本体が奥にいた一人に命中。ゴミは三人に――厳密に言えば少女を含む四人に――漏れなく降り注いだ。我ながら見事なスローイングだ。 動きの止まった男三人がこちらを睨んだ。俺はなんとなくだがリーダー格と思しき男に見当をつけ、そいつを睨みかえした。どうやら俺は案外胆の据わったやつらしい。 男たちが襲い掛かってくることを予想して身構えた俺だったが、男たちは顔を見合わせると、俺とは逆方向に走り去っていった。 「助かったよ、ほんとありがとっ! あははっ、臭うなこのゴミっ!」 少女はゴミを払い落としながら笑っていた。今さっきあんなことがあったというのに、全く 動じていないようだ。俺以上に胆が据わっている。 「今のは知り合いか何かか?」 「いやっ、全然っ」 「じゃあ、なんだってあんな目に遭ってたんだ?」 「実はねっ、前にもあったんだよこういうこと。でもさすがに今のは危なかったよ。男三人がかりはあたしもツラいからさっ」 襲われやすい体質か何かなのか? などと思っている俺に少女が言った。 「ほんと助かったよっ! お礼がしたいんだけど、時間はあるっ?」 時間があるのかどうかは実際のところ俺自身にも解らなかったが、俺には他に行くべき場所も思い当たらず、少し迷ったがそれに応えることにした。 少女の家に案内された俺は、ただただ驚いた。門から家が見えない。左右を見回すと塀が遠近法に従って延々と続いていた。ここはどこかの武家屋敷か何かなのか? 一体どんな悪いことをすればこんな家に住めるんだろう、などと考えていた俺に既視感のような不思議な感覚が襲ってきた。そしてそれは一瞬で過ぎ去っていった。 残念なことに、やはり思い出せることは何もなかった。 家屋の玄関前で、当主と名乗る初老の男性が向かえてくれた。 「娘から事情は聞きました。危ないところを助けていただいたそうで、私からも礼を言います。本当にありがとうございました。こんなところでは何ですから、とにかく中へ」 この屋敷から察するに、さっきのはおそらく誘拐未遂事件か何かだったのだろう。 俺は身代金の額を想像しようとしたが、途方もない数字になりそうですぐさまあきらめた。 屋敷の応接に通された。家屋は日本風だがこの部屋は洋風の造りだった。 当然ながら、一般家庭のリビングを三つか四つばかり足したくらいに広い。 ゴテゴテとした飾りや置物などは一切なく、一枚の絵が掛けられているだけのシンプルな部屋。そうしたものがなくともこの部屋が充分に手のかかったものであることは一目で解る。なんと言うか、滲み出る品格のようなものがこの部屋からは感じ取れた。 純和風の衣服に着替えた少女は腕や髪を鼻に当て、匂いを調べていた。あれだけ髪が長いとさぞかし洗うのも大変だったろうな。ゴミバケツを投げつけたのはさすがにやりすぎだったか。 「失礼ですが、この近くにお住まいの方ですか?」 当主からの質問だった。俺の服装からそう思ったのだろうか。上着を買ったとはいえいささか季節外れの感は否めない。家の周りの散歩か、あるいは近所に買い物にでも行くような格好に違いなかった。 だが、俺は少し考えて旅行者ということにしておいた。 記憶を失っているという説明をすんなりと信じてもらえるようには思えなかったし、近所の話題を振られても困る。 今思えば俺は記憶を失ったことについてかなり楽観的に考えていたのだろう。すぐにでも記憶は戻るだろうと。 少女はニコニコしながら俺の返答を聞いていた。 「でしたら、もしご都合がよろしければしばらく当家に滞在されてはいかがですか。海側や少し西側の方に行けば、見るものもたくさんありますよ」 これは願ってもないことだった。 俺には行くべきところも解らなければ、帰るべきところも解らないのだ。 「そうしなよっ、お兄ちゃん!」 少女の言葉が、なぜか心地よく響いた。 不思議な懐かさとでも言おうか、そんな暖みがあった。 俺はありがたくその提案に甘えることにした。 そうして俺は、詳しくは書かないが今までに食べたこともないであろう豪華な夕食をご馳走になり、詳しくは書かないが小振りの銭湯としてすぐにでも営業出来そうな客用の浴室で疲れを取り、詳しくは書かないが老舗の高級旅館に泊まるときっとこんな部屋なんだろうという客間に案内された。 しばらく今日一日のことを振り返っていると、少女がやってきた。 「お茶持ってきたよっ!」 この娘は、一日中こんなにテンションが高いのか? 「いやー、おやっさんにこってり絞られちゃったさっ。いつもはあんな時間にあんな道通らないんだけどねっ。今日は学校でやることがあって特別なのだっ!」 「やっぱりあれは誘拐とかそういう類のものだったのか?」 少女は俺の持っていたサングラスに興味を示し、手渡したそれを眺めながら話しを続けた。 「多分ねっ。ここいらも物騒になったもんだよ。前にもあったってのは三ヶ月くらい前。ほんと危なっかしくておちおち学校にも行けやしないよっ」 会話の内容とはうらはらに、少女が楽しそうにしているのは気のせいか? 「まあそんなこと気にしすぎてもしょうがないっさ!」 当主も少女も、本当に気持ちのいい人たちだった。 俺は自分が嘘をついていることに関して、申し訳ない気分になっていた。 少女はしばらく話したあと、また明日と言って席を立った。 去り際に、 「お兄ちゃんって何だかちょっと変わった人だねっ」 と言い残して。 彼女は俺にも解らない何かを見抜いたのだろうか? それについてしばらく考えてみたが、早々にあきらめて俺は床についた。さすがに今日は色々と疲れた。 雪が舞っている。俺はベンチに座っている。見覚えのない風景。 辺りを見回す。遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。 どこからか少女の泣き声を耳にした。 声を頼りに歩く。少し開けた場所に出た。ブランコや滑り台がある。 物憂げにうつむいた少女が一人、ブランコに腰掛けている。 少女は泣いてはいない。にもかかわらず泣き声はまだ聞こえている。 わずかにブランコを揺らしながら、足元を見つめる少女。 何かをじっと考えているようだ。 やがて静止するブランコ。 少女は静かに立ち上がると、うつむいたまま立ち去っていく。 目が覚めた。奇妙な夢だった。見覚えのない風景。公園だろうか。 あれはこの家の少女ではなかった。俺の失われた記憶に関係しているのだろうか。 朝食の後、俺は初老の当主に、少し時間をいただけないかと願い出た。 話したいことがあると。 あまり長くは時間を取れませんが、という前提で当主の書斎に通された俺は、これから少し奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで自分の身の上を正直に話した。 昨日の昼過ぎに、川沿いの公園で目を覚ましたこと。 そこがどこなのか、今がいつなのか、自分が誰なのかすら解らなかったこと。 自分の所持品から、自分の身元を調べようとしたが、全く手がかりがなかったこと。 手帳に電話番号と住所が書いてあったが、電話は繋がらず、その住所にも全く心当たりがなかったこと。 しばらく当てもなく歩いていると、偶然少女と男たちが争っている場面に出くわしたこと。 昨日はなんとなく記憶喪失であることを言わないほうがいいように思え、嘘をついたこと。 そして、自分には何かやらなくてはならないことがあったと思えること。 「それが事実だとしたら興味深い話ですな」 当主はにこやかに話した。 「こうして今話しているのも何かの縁。もしよろしければあなたの身元調査に協力させていただきますが。私もそれなりの情報網を持っておりますので、きっとお役に立てると思います」 「今の私には頼るものが何もありません。恐縮ですが、お言葉に甘えさせてください」 「ええ、ええ。どうかお気になさらずに」 当主は一呼吸おいて、 「では、まず私にも所持品を確認させていただきたいのですが。包み隠さずに申し上げますと、身元の解らない人物を当家に滞在させるとなると、こちらとしてもそれなりに調べさせていただくことがあります。ですがあくまで形式的なものだと思ってください。私もこういう立場の人間ですのでそれなりに人を見抜く目を持っています。私にはあなたが何かを企むような人間には思えませんので」 当主の要求は当然のことだ。早速俺は、財布、手帳、それに腕時計を差し出した。 しばらくの間、それらを検分した当主の見立てによれば、財布、手帳に関してはありふれた市販品で、特に手がかりになるようなものは見当たらない。 手帳に書かれていることも、電話番号と住所を除けば特に身元の解るようなことは書かれてはいない。 腕時計は一般的なクォーツ時計ではなく電波時計であるが、数万円あれば買える市販品とのことだった。製造番号の刻印などはなく、やはり手がかりにはなりそうにない。 そして当主は、疑問を正直に語った。 「あなたの所持品には不自然さが残ります。あなたは何らかの理由で敢えて自らの身元が所持品から判断されないようにしていると見受けられます」 それに関しては俺も同じ意見だった。大抵の場合、財布の中には身元が判断出来るようなものが必ず入っているはずだ。でないと、ビデオテープ一本借りれやしない。 「もしかしたら、あなたは諜報活動のようなことを生業とする方なのかもしれませんね」 当主は冗談っぽく言った。 仮にそうだとしても悪いようにはしませんので、記憶が戻られたら必ずお知らせください、とも。 「ひとまず電話番号と住所の線で調査してみます。あなたは調査が終わるまでは遠慮なく当家にご滞在ください」 「重ね重ねお礼申し上げます」 俺は深々と頭を下げた。 「いえいえ、もとはと言えば、娘を救っていただいた恩がありますし。それとあなたが記憶喪失であることを家人には話しておきたいのですが、よろしいですかな?」 「ええ、構いません」 ひとまず、俺は当面の宿を確保することが出来て、胸をなでおろした。 その日は当主の了解を得てまた周辺を歩き回った。 だが今日も手がかりは何も得られなかった。見知らぬ街並み、見知らぬ人々。 屋敷に戻った俺は、これからお世話になる身で客間を使わせていただくのは恐縮なので、出来れば別の部屋に移してもらえないかと当主に頼んだ。 広すぎる部屋は今の俺の身分ではなんとも落ち着かなかった。 「そうおっしゃるのであれば、こちらは全く構いませんよ」 当主は快諾し、俺に離れの部屋を用意してくれた。 「この部屋は先代が時々使っていた部屋でして」 俺がいかにも恐縮しきりなのを気の毒に思ったのか、当主は、 「もしよろしければ、ご滞在のあいだ娘の学校への送り迎えをしていただけると誠にありがたいのですが。いかがでしょうか?」 と提案してくれた。 俺は、是非そうさせてくださいと即答した。断る理由など欠片もない。 「やっほーっ! お兄ちゃん記憶喪失なんだってねっ。どおりでおかしいと思ったさっ!」 当主が去ってしばらく後、今度は少女がやってきた。 「俺におかしなところなんてあったか?」 「だってお兄ちゃんの言葉って、アクセントとかがうちらと一緒じゃない。明らかにこの地方の言葉だよ。それで旅行者ってのは不自然さっ!」 なるほど、そう言われてみれば確かにその通りだった。実に頭のいい少女だ。 だとすれば、やはり俺はこの近辺に住んでいたのだろうか。 ところで、君の言葉は周りの人とはかなり違うと思うぞ。 「あははっ、そうかいっ?」 あいかわらず、屈託のない笑顔。 「でも、おかしなのはそれだけじゃないんだけどねっ。それは記憶が戻ったらまた聞かせてもらうよっ」 少女にはまだ何か含むところがあるらしい。 「じゃあ、明日からよろしくねっ!」 次の日から、俺は少女とともに登校し、記憶を取り戻すために街中を散策し、少女とともに下校するという日々を過ごした。 「あー、お兄ちゃん、読みたい本があるから、悪いけどお迎えのときまでに買っておいてくれないっかな?」 「今日は、ちょっと別の道で帰りたいんだけど、大丈夫っかな?」 「スモークチーズ買っておいてくれないっかな? あたしの大好物なんだっ!」 「昨日のスモークチーズより別の店の方が美味しいから、今日はちょっと遠出してもらっていいかなっ?」 と、俺に色々と注文をつけてくれた。 おそらく彼女なりに俺を色々なところに出向かせて、少しでも記憶を思い出せるきっかけになるようにと考えてくれているのだろう。 単なるお使い要員なのか、スモークチーズにうるさいだけかもしれないが。 そして、結局のところ俺は記憶を取り戻す糸口すら全くつかめなかった。 また夢を見た。数日前と同じ、雪の舞う公園。 どこからか聞こえてくる少女の泣き声。ブランコに佇む少女。 ある日の朝食後、当主に呼ばれた。調査の結果が出たということだった。 「結論から申し上げますと、芳しくありませんでした。まず電話番号ですが、どうも今までに一度も使われていない番号のようです。あれは電話番号ではなくて何か別の意味を持つものかもしれませんね」 電話番号に似せた暗号か何かということだろうか。 俺はやはりスパイとかそういった職業の人間なんだろうか。 「住所は実在しましたが、あなたとの関連性は全く見出せませんでした。住人の家族、親戚だけでなく、友人や知り合い関係なども洗ってみましたが、行方不明者や旅行者あるいはこの近辺に住んでいる者、つまりあなたに該当しそうな人ですな、そういった方は見つけられませんでした」 当主は残念そうに首を振り、 「これであなたの所持品からの調査の線は断たれたということになります」 俺は率直な疑問を率直に訊いた。 「俺はいつまでここにいてよいのでしょうか?」 「実は、娘を誘拐しようとした連中がほぼ特定出来まして。ですがまだ確証は得られていない状態で、それが解るまでは娘も狙われ続けるということになります。よろしければ、しばらくの間は娘のボディーガードを続けていただけるとありがたいのですが。その後のことはまたそのときに考えましょう」 「申し訳ありません。記憶が戻りましたらいつか必ずお礼をさせていただきます」 「いえいえ、こちらとしても大変助かっておりますので。娘もあなたにはよくなついているようですし。実を言うとこれまでも何度かボディーガードを雇おうとしたことはあったのですが、いつも娘に断られて困っていたものですから」 お気遣い痛み入ります。俺は頭を深々と下げて、書斎を後にした。 もしこのまま記憶が戻らなければ、いずれこの家を出なければならないだろう。 いつまでも当主の好意に甘えるわけにもいかない。そうなれば俺は自力で生活の手段を考えながら記憶を取り戻す努力をしなければならない。 俺が自由に使える時間はあまり残されていないだろう。 俺は、あの奇妙な夢にかけてみることにした。 書店で近辺の地図を買い、公園を調べ、印を書きみ、しばらくの間それらを重点的に廻ってみることにした。 遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。そしてブランコ。 どこの公園にもあるようで、しかし夢の情景を満たしているものはなかなか見つからない。 何よりも、夢で見た風景である。それを鮮明に思い出せるはずもない。 この近辺の公園だという保障はどこにもなかった。だが、俺にはこれ以外に記憶を取り戻すための手がかりは何一つないのだ。 三日間かけて、俺は地図上の公園全てに足を運び、さらに元の地図を中心として周囲八箇所の地図をあらたに買い求め、二週間かけてそれらを踏破した。 だが、結局俺の夢に該当する公園は一つも見つからなかった。 もしかしたら見落としがあったのかもしれない。 あるいは、ここよりもっと離れた場所にある公園なのかもしれない。 俺は途方に暮れていた。何しろ公園が本当に俺の記憶を呼び覚ますためのきっかけになるのかどうかすら解らないのだ。 俺がほとんど諦めかけていた頃、それは起こった。 ある日の昼過ぎ。俺は私鉄の駅前にいた。既にこの周辺には一度足を運んでいる。 駅前の道沿いには商店が立ち並び、北側には豪華そうなマンションが見て取れる。 俺はここ数日の間、念のためにと幼稚園や小学校に付随しているような公園を探し歩き、この日の午前中にそれら全てを調べ終わったところだった。 もはや打つべき手は何も思いつかなかった。 何の意図もなく予感もないまま、線路沿いの通りから人気のない路地に入った。 そして角を曲がってすぐのところにそれはあった。 「あれ……、こんなとこに公園なんてあったっけか?」 疲れのあまり思わず独り言が出る。 既に肉体的にも精神的にも疲労はピークに達していた。 地図と照合する。載っていない。公園の造りから、比較的新しく出来た公園のように思えた。 やれやれ、新しい地図を買ってもう一度洗いなおす必要があるかもな。 俺は大した期待もなくその公園に入った。 遊歩道、ベンチ、街灯の雰囲気などが夢の場所に似ているように思えた。 だがなにしろ狭い公園だった。ブランコや滑り台がないのは一目で解る。 俺はベンチに腰掛け、頭を抱えながらこれからのことを考えていた。 何も思い浮かばなかった。そして俺はいつの間にか眠っていた。 夢を見た。いつもの公園。雪が舞っている。 少女の泣き声とともに、ブランコの音がどこからか聞こえてくる…… 目を覚ました。薄暗がりの公園には外灯の明かりが点っている。 寒い。雪が降り始めていた。 山側から吹き降ろす風が頬を冷やす。 どこからか少女の泣き声が聞こえる。 ブランコの音が鳴り続けている。 待て? なんだって? 泣き声? ブランコ? あらためて耳を澄ませる。夢の続きでも幻聴でもない。 それは微かではあるが、確かに聞こえる。 俺はブランコの音を頼りに走った。 その公園は、樹木が植えられている茂みを挟んで、二箇所にエリアが分かれていたのだ。俺が寝ていたベンチがある一画とは反対側に、確かにブランコと滑り台が置かれていた。 そして、ついに俺はブランコに座る憂鬱げな少女を発見した。 夢のとおり、彼女は泣いていない。だが泣き声は依然として聞こえてくる。 俺の姿に気づいたのか、少女は、 「あんた、さっきベンチで寝てた人でしょ。こんなとこで昼間から居眠りなんて、大人ってのも随分暇なものなのね」 随分と口の悪いガキだな、そう思いながらも俺は話しかけた。 「お前こそ、こんなとこで一人で何やってんだ?」 しかし、そいつは俺の問いを無視して言った。 「あんたどう思う? 世界ってつまらないものだと思わない? あたしはもうこんな世界うんざりよ。誰も私の話なんか聞いちゃいないわ」 お前こそ俺の話を聞いちゃいないだろうが。 「どうしたんだ? 家か学校で何かあったのか?」 「あんたは……自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことある?」 何を言い出すんだ、こいつは? 「あたしね、この前野球場に行ったの。家族に連れられて……。あたしは野球なんかには興味ないんだけど。でも着いてみて驚いた……」 突然俺は、頭の中を揺さぶられるような違和感を覚えた。 「……日本の人間が残らずこの空間に集まってるんじゃないかと思った……」 誰かが俺の頭の中で、何かを叫んでいる。 「……実はこんなの、日本全体で言えばほんの一部に過ぎないんだって……」 少女は話を続ける。頭の中の叫びは次第に大きくなり、はっきり感じ取れるようになっていた。 言葉の主は繰り返していた。『思い出せ』と。 「……世の中にこれだけ人がいたら、その中にはちっとも普通じゃなく面白い人生を送ってる人だってきっといるわ。でもそれがあたしじゃないのはなぜ?」 少女は一呼吸置いて、俺に質問を投げかけた。 「あんた、宇宙人っていると思う?」 唐突に頭の中に一人の少女の顔が浮かんだ。短髪の、無表情で儚げな印象を与える少女。 「未来人は? 超能力者は?」 短髪の少女の隣に、無邪気に微笑む栗色の髪の美少女と、爽やかに如才なく微笑む美少年の二人が加わった。 思い出せ、思い出せ。 あらためて俺は目の前の少女に目をやった。 腰まで届く、長くて真っ直ぐな黒髪、それにカチューシャ。 意思の強そうな、大きくて黒い瞳。 俺は何かを思い出そうとしている。 「お前の……、名前を教えてもらっていいか?」 「そんなこと聞いてどうすんのよ」 俺の真剣な表情を見てあきらめたのか、少女は言った。 「まあいいけど。あたしの名前は、涼宮……」 俺は無意識に立ち上がって、叫んでいた。 「ハルヒ!」 ハルヒはブランコから立ち上がり、鋭い眼光でもって俺を睨みつけた。 「ちょっと……なんであんたがあたしの名前知ってるのよ?」 俺はその問いには答えず、興奮しながら続けた。 「宇宙人? そんなのは山ほど知ってるぞ。幽霊みたいにネットワークやらシリコンやらそういうのにとり憑く奴だっている」 いきなり何を言い出すのか、という表情で俺を見つめるハルヒ。 おそらくさっきの俺の表情がこんなだったに違いない。 「未来人? ありふれてる。現代人よりはるかに多いぞ。今より未来に生きてる奴らはみんな未来人だ」 ハルヒは呆気に取られていたが、そんなことはお構いなしに俺は続けた。 「超能力者? いくらでもいるぞ。奇妙な集団を作って奇妙な空間で奇妙な玉になってるような奴らがな」 ハルヒは呆れを通り越して訝しげな表情でこちらを見ていた。 俺は言った。ハルヒの目をじっと見据えて。 「いいか、よく聞けハルヒ。いずれお前はそういった連中の中心になって、好き放題、勝手気ままな人生を送るんだ。この地球、いや全宇宙の中でもそんなことが出来るのはお前だけだ」 ハルヒは目を見開らき、あらためて俺の表情をうかがっていた。 いつの間にか泣き声は聞こえなくなっている。 「だから周りのことなんか気にすんな。お前はお前が信じる道をただひたすら突き進めばいい。しばらく辛い時期があるかもしれんが、俺が保障する。お前は絶対に幸せになる。だから頑張って生きてくれ」 ハルヒは再び顔をうつむかせ、何かを考え始めた。 しばらくそうした後ハルヒは勢いよく俺を仰ぎ見た。 「よくわかんないけど覚えとくわ!」 そこには、俺が英語の授業中に初めて見たときと同じ、ハルヒの灼熱の笑顔があった。やっぱりお前にはその表情が一番よく似合う。 「話聞いてくれてありがと!」 そう言い残すと、ハルヒは俺がよく知る短距離走スタートダッシュの勢いで走り去った。 俺はハルヒの後姿が見えなくなるまで立ちつくしていた。 ハルヒよ、頑張って生きてくれ。 俺のためにも。 こうして、俺は全てを思い出した。 光陽園駅前公園から鶴屋家に戻った俺は、重要な話があると言って当主に時間を取ってもらった。 これからかなり奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで、俺は 話し始めた。 記憶が戻ったこと。 自分は十年先からやってきた未来人であり、詳細は明かせないがこの時空にいる俺はまだ小学生であること。 涼宮ハルヒという存在とその能力のこと。 宇宙規模的存在とそのインタフェース端末のこと。 俺よりはるか未来にいる未来人たちのこと。 ハルヒにより生み出される閉鎖空間、超能力者とその役割についてのこと。 そしてこれから自分はそれら超能力者を集めた機関を作らなければならないこと。 話し終えるのにざっと二時間はかかった。 俺はハルヒを救うために行動していることについては話さなかった。 それを説明するためには、情報統合思念体の企みについて話さなければならず、そうすると、俺がやつらと敵対する立場であることも明らかにしなくてはならない。 その事実を語ることについて俺は、慎重にならざるをえなかった。 結局のところ俺が当主に話したのは、俺が未来人であることに加え、俺が高校一年の時点で既に知っていた知識と、機関を作る必要があるということである。 当主は怒り出すこともなく、我慢強く話を聞いてくれていたが、その表情には当然の反応として明らかな困惑の色が見えていた。 「あなたの目に嘘は感じられません。それならば、あの電話番号についても納得がいきますからな。ですが、何か確証になるものがあるとよいのですが」 今の俺にとって、この電波話を信じてもらうのにさしたる苦労は必要なかった。 俺は当主の目の前で時間移動をおこない、三日後の新聞を入手して、それを当主に手渡した。当主は三日後を待つまでもなく、その場で新聞の内容にざっと目を通しただけで、俺が未来人であること、そして俺の話が全て真実であることを確信したようだった。 当主とは今の話を機密事項としてお互い他人に一切口外しない約束を取り交わた。 そして、当主は俺の機関立ち上げに全面的に協力する意向であること、詳細な計画を立てるためになるべく明日以降時間を取れるように努力することを表明してくれた。 結局俺は引き続き鶴屋家にお世話になることとなってしまった。 もはや俺には下げる頭も残っていない。 「いえいえ、私どもとしても地球滅亡の危機は避けたいですからな」 当主はどこまでも気立てのいい人物だった。そういうところは確実に鶴屋さんに受け継がれている。 「お兄ちゃん、記憶が戻ったんだってねっ。おめでとっ!」 離れに戻った俺に、将来の鶴屋さん――まあ今も鶴屋さんなのだが――がいつものテンションでお茶を持ってきてくれた。 妹からお兄ちゃんと呼ばれることは長きにわたる俺の念願だったのだが、それがまさか鶴屋さんによって実現されるとは。 「ありがとよ」 俺は笑顔で応えた。 「お兄ちゃん、名前なんていうのっ?」 俺は既定事項に則るならばこの名前を告げるしかないと思い、素直にそれに従った。 「ジョン・スミスだ」 「あははっ! それってどういう冗談っ?」 実に愉快そうに鶴屋さんは笑った。 「そういうことにしておいてくれ」 「まあいいさっ! でさっ、前に言ってたおかしなことだけど、聞いていいっかな?」 「ああ、なんでも聞いてくれ」 俺はお兄ちゃんと呼ばれたこともあって、とても気を良くしていて、かつ気を大きくしてい た。そして、俺は明らかに油断していた。 「ジョン兄ちゃんって、もしかして未来の人っ?」 お茶を含んでいたら、それは間違いなく俺の口から霧散していたはずだ。またしても、そして前回以上に俺は腰を抜かした。動揺が隠せない。 「ま、待て、なんだってそういう風に思うんだ」 満面の笑みを浮かべながら鶴屋さんは言った。 「だってお兄ちゃんのサングラス、割と有名なブランドだけど、それって今年の夏に初めて出る予定のモデルだよっ?」 参った。俺が数週間かけて、まさしく偶然とも僥倖とも言える奇跡で得た真実を、鶴屋さんは俺と初めて会った日からお見通しだったとは……。 「あー、ええとだな……」 考えながら話すのは未だに得意ではない。 「俺にはその、サングラスのメーカーに知り合いがいて、」 鶴屋さんが興味深かそうに俺を眺めている。 「……それでだな、そう、たまたま運良く発売前の試作品を譲ってもらったんだよ、これが」 「へぇーっ」 鶴屋さんの表情はとても楽しげだった。 「でもあのサングラス、随分とくたびれてたように見えたけど」 確かに……ハルヒにプレゼントされて以来、ロクに手入れもしてなかったからな。 そして、俺はやはりこの方を騙し通せるほどの才覚が自分にはないであろうという事実を受け入れ、うなだれながら白状した。 「これは君のお父さんにしか話してないことだ。君のお父さんも含めて絶対に誰にも内緒にしておいてほしい」 「わかってるよっ! 今までもこれからも誰にも言わないさっ。こんなこと他の誰も信じちゃ くれないしねっ!」 こうして俺と当主との約束は、この俺によって一時間を待たずして反故にされたのだった。 俺は情報統合思念体の統括者である老人から逃れるために時間移動し、その直前に老人によって記憶を奪われたのだろう。 ここはあのときから六年、つまり元の時代から十年半ほど遡った過去だ。 俺は最大でも六年間の時間遡行しか出来なかった。つまり少年が言っていた飛び石的時間移動がいつの間にか可能になっていたのだ。 これからのことは当主が言ってくれたとおり、明日からじっくり考えよう。 俺は床につき、すぐに眠りに落ちた。 それも束の間、俺は体全体が大きく揺さぶられる感覚に飛び起きた。 俺が幼い頃に経験した大地震、それを思い出させる強烈な衝撃だった。 だが冷静に辺りを見回してみると、おかしなことに何一つ揺れているものはない。 そして見たところ俺の体にも揺れは生じていない。 しかし俺は確かに激しい揺れを感じている。 何が起こっているのか、ようやく俺は理解した。時空振動だ。それもかなり特大の。 そして理由はすぐに思い当たった。 ハルヒによる最初の情報爆発が今まさにおこなわれている。 未来からでも観測出来た、という朝比奈さんの言葉を思い出す。 今まさに時空振の強大さを俺自身が感じていた。 おそらく今日の俺とハルヒとの会話が、この情報爆発を引き起こしたのだ。 そして驚くべきことに、つまり俺は、六年間の時間移動によりハルヒが作り出したという時 間断層を突破していたのだ。 あの老人ですらそれは不可能なことだと言っていた。 ハルヒは俺のために特別な抜け道を作ってくれていたのだろうか? 老人はあのとき、二度と情報爆発は起こらないだろうと言った。 超自然的かつ奇跡的な確率でおこなわれたことだと。 そしてそれは俺とハルヒの出会いにより再び引き起こされた。 もし運命というものが存在するのなら、俺はそれを信じてみてもいいと思った。 いや、今の俺にはそれを信じる以外に道はない。 第四章
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高校卒業後、すぐに免許を取った私は車を探していた。でも、何なのかしらね、これといった車が見当たらない。金ならたくさんあるのに、パートナーとしての車が見つからない。そんな日々が続いていたある日、廃車の中から、私は『ソイツ』を見つけた。なんだろう?この感じ、まるで呼ばれてるみたい・・・・・見た目はなんともないL型の初期のZ。 ためしに業者に頼んで中を見てみた。L28改ツインターボ、見た目はなんともないけど、中身は化け物みたい。でも、乗ってみたい。このZに、一度、あの湾岸を駆け抜けたい。 むりを承知でたのんだら、不思議にもOKしてくれた。ナンバーもそのままもとの持ち主の引継ぎ、車検証も書いたし、これでこのZはあたしのもの。ガレージも用意してあるから、早速走ろうかしら。夜の湾岸に。 「すごい、じりじりと熱気が伝わってくる、これがあたしの求めたもの、そして、あなたがあたしを呼んだ、ねえ?Z。」 ふと後ろからすごい勢いで走ってくる車がいた。速い。200キロ前後で走ってるのに、相手はそれ以上、車種は・・・・・ブ、ブラックバード?!望むところじゃない、相手にとって不足はないわ、勝負してやる!ってあら、付いて来いといってるのかしら、まあいいわ、ドライバーと話がしたかったし、ここから近いのは大井ね、そこまで誘導してもらいましょ。本当に、古泉君と有希は結婚するためにロンドンに行っちゃうし、みくるちゃんは芸能界に入ってからまったくあわないし、キョンは高校出てからぜんぜん見ないしsos団全員ばらばらになっちゃたわね・・・・・・・。 ~昔の思い出~ キョン「もう、卒業か・・・長いようで短かったな。」 あたし「キョン、あんたこれからどうすんの?」 キョン「社会人になるさ、大学には行かない。」 あたし「みくるちゃんは?」 みくるちゃん「私はもう社会人です、芸能界からスカウトがたくさん来てまして・・・・・」 あたし「そう?薬に手出しちゃだめよ?有希は?」 有希「主婦になりたい。」 あたし「主婦って誰がだんな様?」 有希「この中の誰かと。」 あたし「そう・・・・・古泉君は?」 古泉君「社会人になりますよ、僕も。もっとも、長門さんと一緒に暮らすつもりですが・・」 あたし「そうなの?お幸せに。じゃあ、またどこかで出会いましょ。」 ~これが事実上解散宣言だった。さあ、昔のことは忘れよう。ブラックバードのドライバーにいろいろ聞きたいことがあるからね。 涼宮ハルヒの湾岸(ブラックバード編)に続く